eMemory社長のマイケル・ホー氏が、ハイパフォーマンス・コンピューティング・アプリケーション分野のメモリとセキュリティの課題に対する同社の取り組みについて語った。
EE Times Asia: Stephen Las Marias記者
インターネット・オブ・エブリシング(IoE)の時代となり、特に人工知能(AI)の普及が拡大し、今や人工知能・オブ・シングス(AIoT)がトレンドになろうとしている。その用途のチップ設計がますます必要となってきている。最新のハイエンド・アプリケーションを処理するためには、強力なCPUコアだけでなく、不揮発性メモリも不可欠だ。つまり、最新のチップには、重要な情報を電源オフの状態でも保存できるメモリが必要なのである。
eMemory Technology Inc.のマイケル・ホー社長は、EE Times Asiaのインタビューに応じて次のように語った。
「高性能と低電力を追求するため、携帯電話やノートパソコン、クラウドデータセンターなどで使う半導体デバイスは先端プロセスへと移行しています。最新のアプリケーション、特にHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)やAIでは、大量のデータや画像を高速かつ効率的に処理できる強力なチップが求められています」
eMemoryは不揮発性メモリ (NVM) IPのリーディング・プロバイダーの一つである。
「eMemoryは、多くの種類のメモリ開発に注力しています。当社のメモリ製品には、フローティングゲート・タイプのNeoBitとアンチヒューズ・タイプのNeoFuseからなるOTP(ワンタイム・プログラマブル)メモリ、NeoEEとNeoMTPからなるMTP(マルチプルタイム・プログラマブル)メモリ、PUFベースのセキュリティ・ソリューション、および、弊社独自の組み込み用フラッシュメモリNeoFlashがあります」
しかし、ホー氏は次のように指摘している。プロセスの微細化にともない、高い性能を確保するためにはプロセスとチップ・アーキテクチャの両方に技術革新が必要となる。例えば、電流をより流せるようにしながらリーク電流は抑えなければならない。それは電力効率や信頼性に影響を与えるからだ。
「高性能アプリケーションの要求に応えるためにはNVMを先端プロセスでも作製する必要があります。しかし、そのプロセスは非常に複雑であるため、個々のコンポーネントそれぞれを、個別に最適化するように設計することは現実的ではありません。当社のエンジニアは、先端プロセスノードで信頼性の高いロバストなNVM技術を実現するため、デバイスレベルから設計レベルに至るまでの各段階において、それぞれに最適な方法を見出さなければなりません」
業界必須の課題―コストを増加させず、設計も複雑化することなしに、先端ノードでNVMのスケーリングを可能とする―をeMemoryの先進アンチヒューズOTPソリューションであるNeoFuseが解決した。それによりeMemory は EE Awards Asia 2024のBest IP/Processor of the Year賞を受賞した。

eMemory の先進アンチヒューズ・ソリューションがBest IP of the Year 賞を受賞
「先端プロセスの5nmノードでは、デバイスの定格電源電圧は従来の1.8Vから1.2Vに低下します。NeoFuseを設計するにあたっては、電源電圧の低下にもかかわらず、プログラミングの高電圧と高性能を維持するという課題を克服する必要がありました。NeoFuseは、デバイスの信頼性を維持しながら内部電圧を3~4倍に高める画期的な回路を採用しています。また、その新しいアーキテクチャは、5nm未満のプロセスノードでも150℃までの高温耐性を実現しています」
さらに、高性能アプリケーションの新たな要求を満たすため、eMemoryのNeoFuseには各ワードデータにパリティビットが標準装備されており、ユーザーはデータの整合性を確保するためにエラー訂正符号(ECC)を実装できる。このため、車載システムをはじめとする高信頼性SoCアプリケーションにとって理想的なソリューションだ。
「NeoFuseは、あらゆる種類の最先端アプリケーションの進化をサポートすることを目指しています」
NeoFuseがEE Awardsを受賞した理由の一つにその独自性がある。eFuseと異なりNeoFuseでは、プログラムされたセルとプログラムされていないセルの物理的な違いが目に見えないためより安全である。また、大容量を必要とする場合、NeoFuseの面積(フットプリント)はかなり小さい。

NeoFuseはeFuseに比べて安全性が高くコストは小さい。メモリセルのデータの違いが視覚的にはわからず、大容量の場合に必要とする面積も小さい
「NeoFuseのメモリセルの3T構造は、従来のOTPの2Tセルにレギュレーティング・トランジスタを付加したもので、歩留まり、信頼性、プログラミング成功率それぞれを向上させました。特許は取得済みです。これにより、テスト時間とコストの削減ができます。また、NeoFuseは、製造にあたっては標準ロジック・プロセスと互換性がありますから、最先端アプリケーションに対しても、迅速な市場投入、高品質、低コストを実現できます。NeoFuseは、16nmから3nmまでの先端プロセスで、常に最初に採用されるべきOTPとして、AI、HPC、データセンター、自動車などの要求仕様の厳しい分野のアプリケーションに最適です」
一方、ハイエンド・アプリケーション分野では、大量のデータを処理するチップすべてが、内蔵SRAMの急激な大容量化による歩留まり低下という課題に直面している。この問題に対処するため、eMemoryは、最近シーメンスと協業し新しいSRAM修復ツールセットを開発した。NeoFuse OTPをシーメンスのTessent MemoryBIST(Built-in Self-Test)ツールに統合し、さらにeMemoryの子会社であるPUFsecurity Corp.が共同開発したインターフェイスと組み合わせることで、SRAM修復ツールをより使いやすいものにした (SRAM repair tool)。
「シーメンスのTessent MemoryBISTは90%以上の市場シェアを誇っており、SRAM修復ツールをシーメンスと共同開発することは、OTPアプリケーションのトレンドとして非常に重要です」とホー氏は言う。
チップ・セキュリティ問題への対応
ほとんどすべての分野の最新アプリケーションが高い性能を要求している。そのため、インターコネクトを実現するためのチップ設計はより複雑になっている。しかしながら、設計者が特に注目しているもう一つの重要な課題は “セキュリティ” である。
自動車、フィンテック、産業自動化、あるいはスマートフォンやポータブル端末などの個人用端末においてさえも、サイバー攻撃がますます巧妙化する中、チップのセキュリティはかつてないほど重要になっている。実際、ハッカーは高度なAI、特に生成AIを活用して悪意のあるコンテンツを作成し、デバイスに危害を加える。
インターコネクトされた複数のデバイスの保護、膨大なアプリケーション全般の機密データの保護、サイバーリスクと戦う緊急性の高まりなど、こうした課題は、組み込みセキュリティ業界とそのエコシステムを活性化させている。調査会社MarketsandMarketsによると、組み込みセキュリティ市場は、2023年の74億ドルから2028年には約98億ドルに成長すると予測されており、2023年から2028年までの年平均成長率(CAGR)は5.7%である。
今、この最前線をリードしているのはeMemoryの子会社PUFsecurity Corp.だ。eMemoryはNeoFuse技術によりほぼ理想的なPUF性能を持つNeoPUFを発明し、NeoFuseやNeoPUF技術と業界の要求に基づき、2019年にPUFsecurityを設立した。PUFsecurityは、さまざまなレベルのハードウェア・セキュリティ・ソリューションに対応するため、データの安全な保管技術と鍵作成技術の開発に注力している。すでにHardware Root of Trust(PUFrt)やCrypto Coprocessor(PUFcc)などの製品を販売している。
PUFrtは、内部のPUF回路がチップに固有のパスワードを生成するコアとして機能し、ルートキー、つまり、チップ固有の識別コード (UID) の作成に利用できる。さらに、そのキーは内部のNeoFuse OTPに安全に格納される。また、PUFrt内のTRNG(True Random Number Generator: 真正乱数発生回路)は、PUFの値を利用して高品質の乱数を生成し、多様で厳格なセキュリティ要求に応えている。PUFrtを組み込むと、ハッカーの攻撃に耐える堅牢な保護シェルを形成することができる。例えば、IoTのエンドポイント・チップの場合、信頼のおける安全なチェーンを構築するための確実な基盤技術となる。PUFrtの上位機能製品のPUFccは、米国国立標準技術研究所(NIST)認定の包括的暗号化アルゴリズムを組み込んでいて、セキュア・ブート、セキュア・アップデート、セキュア・デバッグなどの高度なセキュリティ機能をサポートしている。
2023年に、PUFsecurityはワンストップショップのセキュリティ・プラットフォームをリリースした。それは従来のコントローラとインターフェイスをアップグレードし、より包括的で市場に即応できるセキュアIPプラットフォームである。メモリ・マッピング、ビヘイビア・モデル、リグレッション・テスト・メソドロジなどにより、よりスムーズな導入と検証が可能になった。
「eMemoryとPUFsecurityは一つのグループとして、両社のセキュリティ技術すべてを結集し、お客様にソリューション・パッケージを提供します。このソリューションは他社では実現できそうにないものです。その理由は、ハードウェアとソフトウェアのIP設計の両方に秀でた企業はほとんどないからです」とホー氏は言う。

OTPからPUF、さらに、PUFベースのセキュリティ・ソリューションへと、eMemoryとPUFsecurityは、ハードウェアとソフトウェアIP設計の融合によりワンストップ・サービスを提供する
PUFsecurityは最近、新製品PUFcc7を発表した。PUFccのアップグレード版で、新しい暗号方式TLS 1.3のセキュリティ要求を満たしたものだ。また、PUFsecurityとArmは共同でPUFccとArm Corstone-300を組み合わせた強力なセキュリティ・フレームワークをリリースした。これは、2024年の第4四半期にSESIPおよびPSA認定レベル3 RoTコンポーネント認証を獲得した。
「ハードウェア・セキュリティを強化するために、すでに多くのお客様が当社のPUFrtをArmアーキテクチャに組み込んでお使いになっています。一方、PUFccの採用も急速に進んでいます。こちらのお客様は、必要な機能がすべてそろっている便利さと、CAVP認定の暗号エンジンを活用することによって、製品の早期の市場投入と短期の認証手続きが可能です」
実際、データセンターとクラウドの急速な増加が叫ばれている中、業界はCPU、GPU、DPUなど、データセンター・アプリケーション向けに設計されるチップに対して、シリコン上にルート・オブ・トラストを実装するためのオープンな標準規定Caliptraを制定した。
「お客様がデータセンターからのサービスをご利用になる場合、お客様がお持ちの端末機器もCaliptraの仕様に準拠する必要があります。私たちのルート・オブ・トラストのソリューションであるPUFrtは、データセンター・アプリケーションから要求されたセキュリティ仕様を満たしています。実際にPUFrtをご希望になるお客様はますます増えています。Caliptra標準の説明によりますと、最初は、機密データ計算用のチップにだけCaliptraを導入します。が、その後、すべてのチップにCaliptraの組み込みを拡大させる計画になっています。関連の規定によってもセキュリティ・ソリューションの必要性が高まっています。私たちのソリューションを採用していただければ大丈夫と言えます」
ホー氏は、PUFsecurityは、設計、製造プロセスノード(150nm-3nm)、セキュリティ・フレームワーク・リファレンス、認証それぞれ、ワンストップ・ショップ・サービスと革新的なソリューションを提供するため、セキュリティ・ポートフォリオ全体のアップグレードと完成を継続していく、と付け加えた。
これらの実績により、PUFsecurityはEE Awards Asia 2024のBest Security Technology Platform賞を受賞した。

PUFsecurity が2024年のBest Security Technology Platform賞を受賞
「EE Timesは業界において影響力のある技術情報メディアです。多くの半導体大手と肩を並べてこの賞を受賞できたことを光栄に思います。このような高評価を得て、我々はさらに邁進していきます。また、eMemoryやPUFsecurityをご存知なかった方々がEE Awardsを通して私たちの存在をお知りになり、より多くの新しいご協力の機会が訪れることを願っています」
今後の展開
ホー氏は、eMemory IPのプロセスノード・ロードマップを今後も積極的に拡大していくと述べる。
「NeoFuseは2025年には3nmの品質認定を完了します。2nmはすでに準備中です。さらに、新技術も開発中です」
一方、PUFsecurityは、自動車産業向けの全く新しいソリューションであるPUFhsmの発表を直前に控えている。このPUFhsmはCPU内蔵アーキテクチャで、セキュア・ブート、セキュア・アップデート、セキュア・デプロイメント、キー・マネージメント、ライフサイクル・マネージメント、セキュア・デバッグ、セキュア・モニタリング、および、EVITA Fullに準拠、という8つのセキュリティ目標を実現するものだ。
「最後になりますが、当社は製品の改良を常に継続し、これまでもさまざまな技術プラットフォームや先端プロセスノードへの展開に成功しております。先進的なアプリケーション市場では、大手企業との協力や販売促進が当社にとって技術革新の原動力となっています。当社は今後もますます成長してまいります」とホー氏はインタビューを締めくくった。

eMemory とPUFsecurityは統合グループとして、R&Dの総合力と専門技術が評価された
